//自分の可能性を信じて行動すれば、人生の「想定外」が「チャンス」に変わる

自分の可能性を信じて行動すれば、人生の「想定外」が「チャンス」に変わる

組織変革に取り組むビジネスリーダーや、キャリアアップを目指す多くのビジネスパーソンが取得しているMBA(経営学修士)。その中には、社内制度を利用してMBA留学した人も多い。外資系コンサル会社で働く内田康介さんは、前職のときに社費留学制度でMBAを取得し、最終的にはまったく異なる業界へのキャリアチェンジを果たした。内田さんのキャリアに、MBA留学はどのような影響を与えたのだろうか。

夢は小説家……実学に興味がなかった学生時代

外資系コンサルティング会社の戦略コンサルタントとして、企業が直面する経営課題と向き合っている内田康介さん。戦略コンサルタントとは、一言でいうならば問題解決のプロフェッショナル。顧客が抱える課題を戦略へと結びつける論理的思考能力や、コミュニケーション能力、グローバル展開する企業に対応する高い語学力などが求められる。いわば企業の命運を左右する経営に深く関わりながら、ビジネスの第一線で働く内田さんだが、もともとは小説家志望で、ビジネスや経営には興味がなかったというから驚きだ。
「昔から本が好きで、大学時代は古本屋巡りばかりしていました。文学や哲学という実生活ではあまり役に立たないことに興味があり、読む本のテーマも宇宙や脳科学、意識、神話、宗教というラインナップでしたから、法律や経済、ましてや経営とは真逆の方向を向いていましたね。将来についても『小説家になってさびれた旅館で執筆活動したいな』とか、『大学に残って研究者になるのもいいな』と考えていました」

大学4年生になっても就職する気は起こらなかったが、ある人に「将来何になるにしても、就職活動を通じて世の中のことを少しは知っておいたほうがいいのでは?」と言われた内田さん。その言葉に心動かされるところがあり、重い腰を上げて就職活動をスタート。いくつか試験を受けた企業のなかで、NTTに入社する。NTTを選んだのは、当時盛り上がりつつあったインターネットが、これから世の中を大きく変えるという予感があったからだそうだ。
「おそらく僕は、周りの環境や周りの人の言動に反応することでやる気を出す人間なんだと思います。ビジネスに興味がないと言いながらも、会社で役割を与えられると、結果を出すために全力で頑張る……。どんな環境でも、自分なりにやりがいを見つけて適応していくタイプだと思います」

インターネットの新規事業でビジネスの面白さに開眼

その言葉通り、NTT入社早々環境に順応しつつ、なんでも要領よくこなしていった内田さん。それと同時に、面白そうなことには鋭くアンテナを張っていった。研修期間を経て、当時分社化したばかりのNTTコミュニケーションズに配属になった内田さんは、インターネットビジネスのインキュベーション組織(企業内の新規事業の創出や起業をサポートし育てる組織)が立ち上がると聞き、メンバーの社内公募に手を挙げる。

「ゲーム会社と業務提携して、オンラインゲームのネット側のプラットフォームの制作を担当したり、新しいネットサービスを作るプロジェクトに携わったりと、刺激的な日々でした。入社2年目のことだったと思いますが、ビジネスそのものがとても面白くなってきて、それまで見向きもしなかったビジネス書を読み始めたのもこのころでした」

そして、内田さんをMBA留学へと導く先輩との出会いがあった。
「直属の先輩だったんですが、その先輩が社費留学制度でコーネル大学ジョンソン経営大学院(以下、コーネルMBA)へ派遣されたんです。それで『先輩が行ったMBAとはなんぞや?』と興味を持ち、さらに帰国した先輩から前向きな体験談を聞いたことで、自分も同じMBAへ行きたいと思うようになりました。正直、MBA後のキャリアを見据えてというより、単純に面白そうだという好奇心のほうが大きかったのですが、当時、将来はネット・テレビ・電話などのさまざまなコンテンツが収束していくといわれており、そうなると既存のビジネスモデルが通用しなくなっていく。時代の変化についていくためにも、ビジネスの総合的なスキルを身に付けたいという思いもありました」

先輩に感化され、半ば思いつきでMBA留学を決めた内田さんは、社内公募の告知があった約2週間後にGMATを受験し、550点という条件ギリギリのスコアで応募。無事社内公募には通ったものの、コーネルMBAに出願、合格するためにはGMATのスコアを大幅に上げなければならなかったため、あわてて先輩に過去問を借り、休みの日は何時間も机に向かった。
「勉強は苦しかったですが、幸いしたのは、英語が得意科目だったことです。『英語をやっておいたほうが、後々役に立つだろう』という意識があったと思いますが、よくNHKのラジオ講座を聴いていて、大学時代にはTOEICで800点台を取っていました。厳しい勉強を短期間で乗り越えられたのは、英語が好きで、得意であることが大きかったかもしれません」

人生の分岐点となったコンサルティング会社でのインターン

ビジネススクールでは、1年次の1学期は必修科目が多く、毎日夜中の2~3時まで勉強しないと追い付けないほどハードなところもあるが、内田さんはリラックスして構えていた。というのも、海外のMBAは1年制のところが多いが、コーネルMBAは2年制。また、大学があるニューヨーク州イサカ市は自然が豊かなところで、広大なキャンパス内には湖やゴルフコースもあり、どこかのんびりした雰囲気があったという。
「ただ、周りのクラスメートは、1年の1学期から、就職のために目の色を変えてサマーインターン先を探していました。僕は特に転職を考えていませんでしたが、周りに反応してやる気になるタイプなので、『僕も頑張らないといかんなぁ』と思い(笑)、会社説明会でリクルーターの話をいろいろ聞くうち、興味を思ったのがコンサルティング会社でした」

夏休みに日本に帰国し、外資系のコンサルティング会社で2週間のインターンをした内田さんは、インターン先の社員やインターン仲間に刺激を受け、「生まれてからこんなに脳内麻薬が流れたことはない」と思うほど濃密な経験をする。
「実は、インターンをするまでコンサルティング業界のことをよく知らなかったんです。それまで知らなかった未知の世界が開かれていく感じがあって、『コンサルタントとしてずっと仕事ができたら幸せだな』と思いました。なので、志望していた会社から正式に内定のオファーが来たときは、断る理由はありませんでした」

帰国して退社の意志を伝えると、会社からは説得や引き留めがあった。けれども内田さんの心は揺るがず、留学にかかった費用を全額返済したのち、外資系コンサルティング会社へ転職した。
「留学費用は高額だったため、返済のために借金をすることになりましたが、その時は自分のしていることをリスクとは感じませんでした。MBA留学を経て、自分の世界が広がっていくのを感じていたときだったので、キャリアチェンジへの迷いはなかったですし、『なんとかなるやろ』と前向きに考えていました」

逃げ道を作らず、自分を信じ抜く勇気を教えてくれたMBA留学

希望を胸に入ったコンサルティング業界だが、転職して2年近くは暗黒のような苦しい日々が続く。OJTを通してコンサルティングに必要なスキルを習得していくが、思うように結果を出せず、何よりクライアントの役に立てていないという現実に、「当時は毎日家で泣いていました」と内田さんは振り返る。しかも、やっとの思いで高いハードルを乗り越えると、また次のハードルが目の前に現れるという過酷な状況に、今でも打ちのめされることがあるという。

「戦略コンサルという仕事は、企業が抱える課題をクリアにし、変革する支援をするわけですが、変革にはリスクが伴いますし、今までの自分たちのやり方を否定しなければなりません。ですから、最初はクライアントから強く抵抗されたり、問題をやり過ごそうとされたりします。でも、戦略コンサルのサポートや後押しによって、その態度は少しずつ前向きに変わっていきます。その過程はとてもスリリングですし、この仕事の醍醐味でもあると思います」

MBA留学をきっかけに、思いのほかチャレンジングな道を選ぶことになった内田さん。

「でも、自分の選択は間違っていなかったと断言できます」と語る。
「MBA留学してよかったのは、自分の興味や利益を追究するだけでなく、いかに社会に貢献し、インパクトを与えられる仕事ができるかという広い視点を持てたことです。また、何をするにも、自分の可能性を信じる勇気が大切であることを、身を持って知ることができました。自分の可能性を信じるのは怖いですし、つい逃げ道を作りたくなりますが、恐怖心を乗り越えて自分を信じ抜く勇気は、人生で大切なもののひとつではないでしょうか」

マイペースでありつつも、欲しいものには自ら手を伸ばし、掴んできた内田さん。変化することを恐れず、自分を信じる気持ちが、MBA留学で起こった「想定外」を「チャンス」に変えたに違いない。

 

プロフィール内田康介(うちだ・こうすけ)
1976年京都府出身。1999年京都大学文学部(人文学科フランス語学フランス文学専修)卒業、NTTに入社。その後、分社化したNTTコミュニケーションズに所属し、インターネットやオンラインゲームの新規事業などに携わる。2006年コーネル大学ジョンソン経営大学院にてMBAを取得。同年帰国後、NTTコミュニケーションズを退社し、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職。

取材・文 武田京子
撮影 坂本ようこ

By |2018-10-16T20:47:27+00:00October 12th, 2018|Categories: Interview|0 Comments

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