//創造性も生産性もアップ! ビジネスにおける『幸福学』のススメ

創造性も生産性もアップ! ビジネスにおける『幸福学』のススメ

複雑を極める時代、多様性が尊重される世の中では、人によって趣味嗜好も異なり、価値観や考え方も違います。それはビジネスシーンにおいても同様。論理性や戦略性だけでなく、一人ひとりの感情やその人らしさに目を向けられるような「EI(Emotion Intelligence)感情的知性」が求められているといいます。

その「EI」に着目し、ハーバード・ビジネス・レビューがEI関連研究における世界の第一人者の記事と論文を集め、出版した書籍シリーズがアメリカで高い人気を博しています。その執筆陣を挙げると、ハーバード・ビジネススクール教授で創造性・生産性研究の第一人者であるテレサ・アマビール氏や、日本でもベストセラーとなった『TAKE & GIVE』著者でペンシルバニア大学ウォーレン校教授のアダム・グラント氏、EQ(心の知能指数)やEIの提唱者である心理学者のダニエル・ゴールマン氏など、錚々たる顔ぶれです。


2018年11月、ついにその日本版である『ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ]』が刊行されました。そしてその第1弾として『共感力』とともに出版されたのが、今回ご紹介する『幸福学』(ダイヤモンド社)です。

  • ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 幸福学
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 販売開始日:2018/11/8

「従業員の幸福」に注目すべき理由

近年、ビジネスにおいて「幸福学」が注目されています。「幸せ」というと、読者の皆さんはどんなことをイメージしますか? 気の合う友人や家族と会話しているとき、おいしいものを食べたとき、グッスリと眠れたとき……。社会的な地位を築くことや、「たくさんお金を稼いで、欲しいものを手に入れること」こそ、幸福だと考える人もいるでしょう。ただ、幸せという、一見して曖昧で、個人的な感情がなぜビジネスにおいても重要なのか、ピンと来ない人も多いのではないでしょうか。

実は、幸福学の研究では、従業員が幸福であることが、創造性や生産性向上に効果があると証明されています。幸福を感じている従業員は、そうでない従業員と比べると、創造性は3倍高く、生産性が30%高いというのです。本書にはこのほか、いくつかのエビデンスをもとに、ビジネスの現場において「幸福度」が重要なことが示されています。

一方、国連の関連団体が2012年以降、毎年発表している「世界幸福度報告」の2018年版調査において、日本は第54位。G7の主要7カ国中最下位となっています。また、国民1人当たりのGDP(国内総生産)で比較すると、OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中、日本は17位(2016年度)と、決して高いとは言えない状況です。

2018年6月には働き方改革関連法が成立し、長時間労働是正や労働生産性の向上が叫ばれるなか、これから日本企業も働く人の「幸せ」に目を向けていくべきタイミングだと言えるのではないでしょうか。その指針となるのが、この『幸福学』なのです。

幸福度を高めるのに不可欠な3つの要素

本書には、前述のテレサ・アマビール氏をはじめ、ハーバード大学心理学部教授のダニエル・ギルバート氏など、総勢12名の研究者や専門家などによる論文が掲載されています。

第1章「職場での幸福は重要である」という論文は、ペンシルバニア大学教育大学院のシニアフェローであるアニー・マッキー氏によるもの。その内容によれば、数十社の企業に勤める数千人にインタビューを行なったところ、職場におけるエンゲージメント(愛着度)と幸福度を高めるには、3つの要素が重要であることが判明したといいます。その3つとは、

・将来に向けた有意義な展望
・意義のある目的
・素晴らしい人間関係

というものです。

日本でも新聞に取り上げられ、大きな話題となりましたが、アメリカの大手調査会社で、組織開発コンサルティング会社のギャラップ社が2017年に発表した「エンゲージメント・サーベイ」によると、日本企業ではエンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」がわずか6%で、調査した139カ国中132位と、最低レベルの水準であることが判明しました。また、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」は24%、「やる気のない社員」が70%もいるというのです。

多くの企業では、ビジョン・ミッションを掲げ、会社の方向性や使命を示し、それらに共感してくれるような従業員を採用し、ともに働こうとしていることでしょう。けれども残念ながら、この調査結果を見ると、それがうまく機能しているとは言えない状況なのではないでしょうか。

フェロー氏は「将来に向けた有意義な展望」について、「従業員の多くが、将来を見通し、自身がいかにそこへ適合できるのかを知りたいと考えている」と述べています。そして、人が学習意欲を持ち、自らを変えようとするのは、「個人的な展望と組織の展望が結びついているとき」だと言います。

また、従業員のモチベーション向上には、自らの仕事が意義深いと感じられるような「意義のある目的」が不可欠です。「素晴らしい人間関係」を築くには、上司と部下がギクシャクするのではなく、何でも率直に話し合えるようなコミュニケーションも重要でしょう。

つまり、従業員のエンゲージメントと幸福度を高め、最大限に生産性や創造性を向上させていくためには、経営者以下、組織に勤める人が心から共感し、自分ごととして考えられるようなビジョンとミッション、そして活発にコミュニケーションを取れるような関係性を築いていくことが重要なのです。

日本の「幸福学研究」第一人者による独自の視点

また、上記に加えて日本版独自の内容としては、日本における「幸福学」研究の第一人者であり、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏が「幸せに働く時代がやってきた」という文章を寄稿しています。前野氏は「幸せ」の定義について、本文中で重要な指摘をしています。
「幸せ」というと、英語で言うところの「Happy」をイメージしてしまいがちですが、どちらかというとそれは短期的な感情で、「ワクワクして楽しい」という心の状態を表しているといいます。

もうひとつ重要なのは、英語で言う「Well-being」。日本語では「健康」「幸せ」「福祉」などと訳される言葉ですが、文字通り、心や身体が「良いあり方」「良い状態」であることも重要だというのです。

つまり、ビジネスにおける「幸福」を追求する際、「Happy(楽しい状態)」と「Well-being(良い状態)」のどちらも視野に入れ、考えることが必要となるのです。

本書は欧米のサーベイや研究による論考がほとんどとなっていますが、前野氏の文章では、それらを日本社会でも活用するために必要な視点や視座、解釈などが提示されており、日本で働く読者にとって大きな手引きとなることでしょう。

私たちには少なからず、仕事は「我慢するもの」「耐え抜くもの」という意識があるのではないでしょうか。本書で多角的な「幸福」についての考察を読むことで、その潜在意識は過去のものとなるでしょう。ビジネスにおいて「働く人の幸せ」の有用性を理解し、マネジメントや組織開発に活かすことが、企業の経営者や中間管理職の課題解決のヒントとなるはずです。

By |2019-01-08T21:31:44+00:00January 8th, 2019|Categories: seeds|0 Comments

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