//人生に行き詰まったときに観たい『サプリ』映画3選

人生に行き詰まったときに観たい『サプリ』映画3選

普段は何事にもやる気満々で新しいことにどんどんチャレンジしていくような人でも、時には仕事や人間関係の悩みで落ち込んだり、

疲れがたまって無気力になったりすることがあるのではないでしょうか。「心が弱ってるなぁ」「元気が出ないなぁ」と感じている人に、映画ライターの中島もえが、「人生に行き詰まったとき」におすすめの『サプリ』映画を3本ご紹介します。落ち込んだ状態から立ち直り、人生をリスタートさせた主人公たちの活躍を見て、元気な心を取り戻しましょう!

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『キンキーブーツ』(原題:Kinky Boots)(2005)


[Before]
チャーリー・プライス(ジョエル・エドガートン)はイギリスの田舎町ノーサンプトンの伝統ある紳士靴メーカー、プライス社の跡取りだが、会社を継ぐ責任の重さから逃れるように、ロンドンに移住しようとしていた。その矢先、社長である父親が急死してしまう。チャーリーは会社を継ぎ社長に就任するが、実はプライス社が財政的に厳しい状態にあり、つぶれかかっていることが判明する。彼は会社を存続させるために、以前にもプライス社がピンチのとき在庫になった靴を原価で買い取ってくれたことがある、ロンドンの卸問屋に出向いて助けを求める。

ロンドンでの商談の結果は芳しくなく、やけ酒を飲んだチャーリーはチンピラに絡まれている美女を見かける。酔った勢いで助けようとするが、美女が振り回したブーツのヒールがこめかみに命中し、そのまま気絶してしまう。チャーリーが目覚めると、そこはとあるショーパブの楽屋。目の前には先ほどの美女……と思いきやドラァグクイーン(女装をした男性)のローラ(キウェテル・イジョフォー)がいて、せっせとショーに出る準備をしているのだった(ローラの“目ヂカラ”と唇のインパクトに注目!)。チャーリーは舞台の袖からローラのショーを観て(ローラの歌唱力は本当に素晴らしく、歌うシーンはこの映画の見どころです)、ローラが女物のブーツを無理やり履いていることに着目。ドラァグクイーンのための「女物の紳士靴」というニッチな市場に自社の活路を見いだす。
[偏見を恐れず自由に生きるローラが元気をくれる]
チャーリーは手はじめにローラのためのブーツを作ろうと考え、ショーの衣装や照明などすべてをデザインしているというローラ本人を、コンサルタントとして靴工場に迎える。しかし、長年プライス社で紳士靴を作ってきた靴職人たち(特に男性)は、「女物の紳士靴=キンキーブーツ(kinky boots)」などという訳の分からない靴を作ることに戸惑い、ローラのこともなかなか受け入れられない。中でも古株の靴職人のドン(ニック・フロスト)はローラを激しく拒絶し、つらく当たる。
それでもチャーリーの熱意とブーツへの興味から、靴職人たちはローラがデザインしたセクシーな女物の紳士靴を作り上げる(工場のベルトコンベアーの上を、紳士靴に混じって出来たての赤いブーツが流れてくるのを職人たちが息をのんで眺めているシーンと、ローラが満面の笑みでそのブーツを試着するシーンは印象的です)。そして常にユーモアにあふれ明るく振る舞うローラは、次第に職人たちに受け入れられていく。最後まで意地の悪い態度を取っていたドンに、ローラは「男ぶりを上げる方法」として「偏見を捨てて」と言うのだった。

[After]
キンキ―ブーツの出来栄えに気を良くしたチャーリーは、会社立て直しの一発逆転を狙って、ミラノの靴見本市に打って出ることを決める。見本市で、ローラがロンドンのパブでやっていたドラァグクイーンのショーを再現するというのだ。しかし彼は見本市で成功しなければ後がないという緊張と、靴の製造を間に合わせなければならないという焦りから、職人たちの仕事に対して厳しい態度に出るようになり、彼らを怒らせて製造が滞ってしまう。さらにチャーリーは、恋人のニコラ(ジェミマ・ルーパー)と一緒に住んでいた家を見本市に出展する資金とするため抵当に入れてしまったことが彼女にばれて、激怒させてしまう。チャーリーとニコラの関係はどうなるのか。そして見本市は成功するのかーー。

★イギリスの紳士靴メーカー「W.J. Brookes Ltd」がモデルとなった、実話に基づいた物語です。こんなすてきな話が実際にあるのですね。映画では、リストラすることを宣告している社員に向かって”What can I do?”(僕に何ができる?)と聞いてしまうほど、頼りなさ過ぎる新米社長を見守る靴職人たちの人情や、彼らの仕事に対するクラフトマンシップなどがかっこよく描かれていてジーンときます。そして何といってもドラァグクイーンのローラがとても魅力的。心にしみるローラのセリフの数々に癒され、元気が出ます。映画を観終わっても、ローラの登場シーンはまた何度でも観たくなります。

『マイ・インターン』(原題:The Intern)(2015)


[Before]
ジュールズ(アン・ハサウェイ)は30歳でニューヨークにファッション通販サイトの会社を立ち上げ、短期間で会社を拡大させることに成功した、やり手の女性CEOだ。夫のマット(アンダーズ・ホーム)は彼女を支えるために仕事を辞めて専業主夫になり、家事や育児をこなしてくれる。はたから見れば「勝ち組」のジュールズだったが、仕事もプライベートも両立させなければと日々奮闘するあまり、肉体的にも精神的にもパンク寸前な状態だった。

そんなある日、シニア・インターン制度でジュールズの会社に採用された70歳のベン(ロバート・デ・ニーロ)がやって来る。ベンはジュールズの直属の部下になるが、ジュールズは40歳以上年上のベンの存在を煙たがり、彼に仕事を振らずに放置する。入社当初、若者ばかりの社内でベンはかなり浮いた存在だったが、長年培ってきた仕事人としての経験値と誠実で穏やかな人柄によって、瞬く間に同僚たちと打ち解け人気者になる(若者に対して偉そうな態度を取らず、押しつけがましくなく適切なアドバイスをするベンは、仕事のことから恋愛まで幅広いジャンルの相談を受ける「みんなのおじさん」的存在になります)。
清潔感のあるスーツを着こなし、革のアタッシュケースを持ち、ポケットにはハンカチを常備し、気づいたことは自ら率先して行い、上司が帰るまでは自分も帰らないベン。そんなベンをもの珍しそうに見ていた若い社員たちは、やがて彼から社会人としての身だしなみや所作、仕事に対する姿勢、上司や仕事相手から信頼を得る方法などを学ぶのだった(ベンも若者たちからSNS文化や今どきのファッションなど多くのことを学ぼうとしていて、年齢を超えた彼らのやり取りがとても面白いです)。
[ベンのいぶし銀の貫禄とさり気ない心配りに癒される]
一方ジュールズは、ある大きな問題を抱えていた。増え過ぎた仕事をこなし切れなくなっていた彼女は、「外部からCEOを迎えてはどうか」と投資家たちから強く勧められたのだ。ジュールズはショックを受けるが、かねてから彼女に「もう少し自分の時間が欲しい」「もっと家族のための時間を増やして欲しい」とこぼしていた専業主夫のマットはCEOの交代に賛成し、早く決めるように勧めてくる。ジュールズは、気が進まないながらもCEO候補との面談を重ねるが、ゼロから自分で作り上げた会社の経営を他人に任せることなどできるはずがない、とひとりで悩んでいた。そんな彼女にベンはそっと寄り添う。
ジュールズがずっと気にしていながら手を付けずにいた激しく散らかったデスクを片付けたり、会議が終わり彼女が車に乗り込むタイミングを見計らって軽食を用意していたりと、多忙で重圧に押しつぶされそうなジュールズを労わり、支えるのだ(ベンのこの行き届いた気遣いはまさに「神対応」と言うべきものです!)。ベンに素っ気ない態度を取っていたジュールズは、次第に彼に信頼を寄せ、心を開いていく。

[After]
ジュールズのドライバーの仕事も任されるようになったベンは、彼女のプライベートまで知るようになる。会社を経営しているジュールズは、一人娘が通う幼稚園の母親たちの中では異質な存在で、ママ友たちから距離を置かれていた。さらにマットとの関係もギクシャクしており、彼女は自分の生き方に自信をなくしかけているのだった。
CEOとしての仕事を手放せば、プライベートも立て直せるかもしれないと考えるジュールズに、ベンは「自分らしく働けばいい」「会社には君が必要で、君には会社が必要だ」と励ます。ベンの言葉で自信を取り戻したジュールズは、自分が抱えている問題にしっかり取り組む覚悟を決め、前向きな気持ちでCEO候補との面談に臨む。果たしてジュールズはどのような決断を下すのかーー。

★紳士的で上品、謙虚で気が利いて頼りがいがある(そして何より見た目がロバート・デ・ニーロ!)というパーフェクトな社員、ベンにとにかく癒されます。こんな素敵な人間は映画の中にしかいないのかもしれませんが、ぜひ身近にいてほしい! ベンが癒してくれるだけでなく、仕事や人間関係を円滑にし、人生を豊かにするための教訓を与えてくれる、お得な映画です。

『のんちゃんのり弁』(2009)


[Before]
永井小巻(小西真奈美)は東京下町育ちの31歳で主婦。夫の実家で暮らしている。夫の範朋(岡田義徳)は年下で自称小説家だが、実際は無職でいつもゴロゴロしている(最悪ですね……笑)。

夫に愛想を尽かした彼女は、ある日離婚届を置いて娘ののんちゃん(佐々木りお)を連れて京島にある実家に出戻る。「養育費も慰謝料もいらない」と言って飛び出してきた小巻に、母のフミヨ(倍賞美津子)や幼なじみの麗華(山口紗弥加)はあきれるのだった。
小巻はのんちゃんを幼稚園に入れると、さっそく自立のための仕事を探し始める。しかし30歳を過ぎて資格も職歴もなく、社会的な常識もない小巻の職探しは難航する(「そんな状態でよく子連れ離婚しようと考えるな」というツッコミはあえてしてはいけません)。貯金も底をつき、生活は苦しくなる一方。そんな中、小巻の前に範朋が現れ「離婚には絶対に応じない!」と宣言し、周りをうろつくようになる。一方、小巻は初恋の同級生と再会し、ちょっといい雰囲気になるのだった。
[小巻が作るのり弁に癒される]
依然として仕事は見つからず、範朋に付きまとわれて多少自暴自棄になる小巻だったが、幼稚園に通うのんちゃんのお弁当だけは毎日欠かさず作る。のんちゃんの好きなお弁当は、小巻特製ののり弁だ(幼稚園児なのに渋い!)。のりの下は「白いご飯」「インゲンとおかかのきんぴら」「ニンジンとシラスの混ぜご飯」「卵そぼろ」「ひじき油揚げご飯」の5層構造になっている。彩りと栄養バランスが考えられた小巻の愛情たっぷりののり弁(のりも、蓋に張り付くのを防止し箸を入れやすくするために細かくちぎってあるのです!)は、幼稚園で大評判になる。小巻は幼稚園の先生たちの分ののり弁も作るようになる。そしてある日、麗華(のんちゃんが通う幼稚園の先生で、彼女も小巻のお弁当のファン)が小巻の家にやって来て、「こんなにおいしいお弁当を毎日タダで作ってもらうのは申し訳ない」と言って先生たちから集めたお弁当の代金を小巻に渡す。自分が作ったお弁当をお金を払って食べてくれる人がいるということに感動し、自分の「お弁当作りの才能」に気づいた小巻は、「安くておいしい最高のお弁当屋を開く」ことを思い立つ。

[After]
「お弁当屋を開く」という目標ができた小巻は、料理の腕を磨くために、前に立ち寄ってサバの味噌煮のおいしさに感激した小料理屋「ととや」の主人、戸谷さん(岸部一徳)に弟子にしてほしいと頼み込む(実は最初の来店時にも、小巻は弟子入りを申し込んでやんわり断られているのでした)。最初は「主婦の気まぐれ」と笑って相手にしてくれなかった戸谷さんだったが、小巻の情熱に根負けし、弟子入りを許す。「誰にも頼らず、自分の力だけで店を開きたい!」と、勢いだけで突っ走ろうとする小巻に、戸谷さんは料理のことだけでなく、働くことの意味や、店を開くことの責任の重さ、生きることについても優しく厳しく教えてくれるのだった。小巻は無事にお弁当屋を開店することができるのかーー。

★生真面目さだけが取り柄で後先考えずに行動し、周りを巻き込む小巻に最初はイライラさせられます。でも、そんな彼女を周りの人たちが笑いながら支えてくれているのを見ていると、下町の人情が心にしみてきて「ああ、何にもできなくても、生きていけるんだな」と安心でき、元気が出ます。心がささくれているような時に観てほしい映画です。
そしてこの映画の一番の癒されポイントであるおいしそうな料理の数々は、「いつだってヒロインになれる!勇気をもらえる映画3選!」で紹介した『かもめ食堂』のフードスタイリスト、飯島奈美さんが担当しています(私は映画の中の飯島さんの料理に、いつも自然に目を奪われているのかもしれない……と今、気づきました)。のり弁だけでなくサバの味噌煮や小アジの南蛮漬け、イカとトマトの肝バター焼きなど、食欲を掻き立てられる料理の映像を見るだけでも(食いしん坊の私は)うっとりします!

[関連情報]
原作漫画も読んでみたい方はこちら

■『のんちゃんのり弁』(4冊)Kindle版(著:入江喜和 / モーニングコミックス 講談社)

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文:中島もえ

By |2018-09-10T13:24:22+00:00September 10th, 2018|Categories: seeds|0 Comments

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