//「正論」だけでは人は動かせないーーこれからの時代に必要な「共感力」

「正論」だけでは人は動かせないーーこれからの時代に必要な「共感力」

世界のエグゼクティブに愛読される『ハーバード・ビジネス・レビュー』で好評を博したEI (感受的知性)をテーマにした論文や記事の中で、より注目度の高かった『共感力』と『幸福学』の2タイトルが日本語版として出版されました。

ここで紹介する書籍『共感力』は、米国トップ大学の心理学教授やFacebookのプロダクトマネジャーをふくむ権威による見解や学術研究の結果を通し、ビジネス界や社会において、企業戦略、倫理性やテクノロジーのみを重んじることよりも、共感力のほうがより重要と訴えています。

人の心を動かす“共感力”の取り組みについての重要性やその影響力、また“共感力を養う”ための実践的アプローチを紹介しています。異文化背景を持つ外国人との円滑な交流や関係構築のために、人の心に働きかける“共感力”は必要不可欠。異文化交流や国際的なビジネスに携わる人には必須の書籍です。

  • ハーバード・ビジネス・レビュー【EIシリーズ】共感力
  • 著者:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 販売開始日:2018年11月7日

人の心を動かす「共感力の土台」を作るには

「共感力」という言葉を聞き、なんとなく理解はできているけれども、明確に説明できないという人もいるのではないでしょうか。「共感力」を養うためには、まず「共感すること」について理解を深めることが最善です。
本書でははじめに、「共感力とは何か」と改めて問いかけています。そして米国心理学者の研究を元に、人はどのように他人に理解を示し、また「共感」をするのかということを3タイプに分け詳細に説明しています。

2章「部下への思いやりは、叱責に勝る」では、「共感力」が、職場の人間関係や環境、上司と部下の信頼関係にどのように大きく影響するかを脳神経の研究結果や体験などを用いて、実証しています。また興味深い研究として、「共感」に欠かせない「優れた聞き手は、どう振る舞うか」という3章の論点があります。

多くの人が想像する“相槌を打ち、黙って傾聴するのが優れた聞き手”という考えとは異なる最新の研究結果や、本当に“優れた聞き手”になるための提案がなされています。
他国の人と交流をはかるとき、異文化という壁を乗り越えなければいけない。そんなときにこそ、人の心を動かす「共感力」が異文化の壁を乗り越え、人と人を繋ぐ力となってくれるのではないでしょうか。執筆陣の提案する視点から、改めて「共感」について再考し、「共感力の高い人」になるための理解を深めさせてくれると言えます。

ダライ・ラマの視点から語られる「共感」から、多面的な「共感」を知る

最終章「ダライ・ラマがEIについてダニエル・ゴールマンに語ったこと」では、ゴールマンがダライ・ラマ14世の類まれなるリーダーシップについて、下記のように言及している箇所があります。

(本書より引用)
“国家元首とも会うし、物乞いとも会う。世界中のありとあらゆる社会階層の人々から情報を得ています。この広大な情報網によって、状況を非常に深い次元で理解でき、さまざまな方法で分析でき、いかなる制約も受けない解決策を思いつくことができるのです。”

文化や国籍などあらゆる違いを乗り越え、多くの人々から共感を得ているダライ・ラマのリーダーシップスタイルは、私たちが学ぶべき姿勢と試みだといえるでしょう。なぜなら異文化交流において、価値観や考え方の違いを理解し共感を示すことの大切さと、そのためにさまざまな価値観や考え方に触れ、世界に存在する多角的な視点を認識し、その違いについて理解を深めていくことの重要さに気づかせてくれるからです。

本書ではダライ・ラマのリーダーシップスタイルについてのインタビューも含め、大学の心理学教授が“リーダー”という立場に焦点をあてて説く「共感力」について書いています。また、教育ソフトウェア企業のデザイン担当バイスプレジデントによる「人の感情に響く共感デザイン、また製品を作り出すまでの試みやプロセス」など、異なるバックグラウンドを持つ執筆者の視点や論点から語られるさまざまな「共感力」について触れることができるのも興味深いところです。

まさに、この本は異文化交流に適した「共感力」向上のプロセスを理解する手助けとなり、それが本書の魅力といえるのではないでしょうか。

新時代における共感力との付き合い方

「共感力を養う」ための最新の研究結果や見解に基づく実践的な提案、自己認識や意識改革に役立つ自己診断などが多数紹介されています。どれも実践に活かせそうな、魅力的な提案ばかり。いずれも詳細にわたるものであり、すべての提案を的確に実行するには、エネルギーが必要だと思わされます。

しかし本書の10章「共感するにも限度がある」では、過度な共感によって生じる精神的な負荷や共感疲労などの問題点を指摘し、持続的に共感力を使用していくための解決策も提案しています。和を重んじる日本の文化や社会では、協調性や共感性を求められることが多々あり、それによる圧力や負荷のトラップにはまってしまう人も少なくありません。

「共感するにも限度がある」という直球の問題提起と共感の行き過ぎを回避するための策は、バランスのとれた共感的環境を保つことに役立つと同時に、日本では得られない他文化の“個を重んじながら「共感力」と付き合う”という、新たな視点と発想を学ぶのにも役立つことでしょう。

【目次】
〔日本語版に寄せて〕 なぜ共感力が必要とされるのか
中野信子 脳科学者

1 共感力とは何か
ダニエル・ゴールマン 心理学者

2 部下への思いやりは、叱責に勝る
エマ・セッパラ スタンフォード大学「思いやりと利他精神の研究教育センター」サイエンスディレクター

3 優れた聞き手は、どう振る舞うか
ジャック・ゼンガー ゼンガー・フォークマンCEO
ジョセフ・フォークマン ゼンガー・フォークマン社長

4 共感が協働を促し、会議の質を高める
アニー・マッキー ペンシルバニア大学教育大学院シニアフェロー

5 子育て経験のある上司とない上司、どちらが育児の苦労に共感してくれるか
レイチェル・ルタン ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント博士課程履修生
メアリー=ハンター・マクダネル ペンシルバニア大学ウォートン・スクール助教
ロラン・ノルドグレン ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント准教授

6 権力を手に入れると、思いやりが薄れる
ルー・ソロモン インタラクトCEO

7 なぜ人は昇進すると横柄になるのか
ダッチャー・ケルトナー カリフォルニア大学バークレー校教授

8 「共感的デザイン」の原則
ジョン・コルコ ブラックボード デザイン担当バイスプレジデント

9 フェイスブックは共感を活用してセキュリティを高める
メリッサ・ルーバン フェイスブック プロダクトマネジャー

10 共感するにも限度がある
アダム・ウェイツ ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント准教授

11 ダライ・ラマがEIについてダニエル・ゴールマンに語ったこと
ダニエル・ゴールマン 心理学者
アンドレア・オヴァンス 『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)シニアエディター

著者プロフィール『Harvard Business Review』(HBR)とは
ハーバード・ビジネス・スクールの教育理念に基づいて、1922年、同校の機関誌として創刊された世界最古のマネジメント誌。米国内では29万人のエグゼクティブに購読され、日本、ドイツ、イタリア、BRICs諸国、南米主要国など、世界60万人のビジネスリーダーやプロフェッショナルに愛読されている。
『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)とは
HBR誌の日本語版として、米国以外では世界で最も早く、1976年に創刊。「社会を変えようとする意志を持ったリーダーのための雑誌」として、毎号HBR論文と日本オリジナルの記事を組み合わせ、時宜に合ったテーマを特集として掲載。多くの経営者やコンサルタント、若手リーダー層から支持され、また企業の管理職研修や企業内大学、ビジネススクールの教材としても利用されている。
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。1998年東京大学工学部応用化学科卒業、2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了、2008年フランス国立研究所にて博士研究員として勤務、2010年 帰国後、研究・執筆を中心に活動。2015年東日本国際大学教授に就任。著書に『不倫』『サイコパス』(文春新書)、『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(幻冬舎新書)、『世界で通用する人がいつもやっていること』(アスコム)、『脳科学からみた「祈り」』(潮出版)などがある。

(https://www.diamond.co.jp/book/9784478106006.htmlより)

By |2019-01-16T10:02:16+00:00January 16th, 2019|Categories: seeds|0 Comments

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